ケラスターゼについての意見

ある大銀行の頭取は、運動のために、運転手つきの社用車による送迎を断って、電車で通っていると聞いたことがある。 ここで一人のイギリス人の知人を思い出した。
名門大学の出身で長くシティで働いて来たが、今は失業中で、懸命に就職活動をしている。 だが、なかなか仕事が見つからない。
仕事ぶりも性格もよく、なかなか有能な人物なのだが、唯一の欠点はひどく肥満していることだ。 三十代の若さで、ぶよぶよの太鼓腹を揺すっている男の印象は、すこぶる悪い。
「不摂生」を自らの身体で証明しているようなものだ。 「不摂生」とはすなわち「セルフコントロールの欠如」である。
私の想像だが、彼はどこの会社の面接でも、まずその第一印象で、はねられるのだと思う。 シティは、いわばイギリス人のあこがれの職場だ。
ここで働き、成功したいと野心を燃やす者は多い。 そうした戦場のような、競争の激しい場所で、実力を遺憾なく発揮するために、心身を常にベストコンディションに保っておくことは当然だろう。

今日もシティの昼休みには、ジムで走り、泳ぐ男女の姿がある。 あれは、プロ意識と言っていい。
誇り高き男たちと女たちの、誇り高き自己管理なのである。 転職していく部下にも、しっかり仕事を教えるシティには、大勢の野心的な若者が集まって来る。
「シティを目指して大学で勉強して来た」と言うイギリス人は少なくない。 面白いのは、彼らが特定の金融機関を目標とせず、金融業界そのものを目標としており、その象徴としてシティが存在するという点だ。
これは説明しにくい感覚だが、あえて言えば、一企業に就職するという意識と、それよりもやや広く、シティという金融業界に就職するという意識が、混在しているといえば、分かってもらえるだろうか。 要するに、企業の外部に向けて彼らの意識が閉じていないということだ。
イギリスでは、多くの金融機関が大学に人事関係のスタッフを派遣して、企業説明会を開く。 卒業予定者は、それに出席して、業績や経営方針についての情報を得る。
それを参考に、これはという企業を選び、入社申請害を出す。 書類選考に合格すれば、多くのきびしい試験や面接が待っている。

それらに全て合格して、晴れて入社という段取りになる。 シティでは、大学卒業したての新人が、長期間、同じ会社で働き続ける例はまれである。
彼らは、ひとつの企業に長く勤務することに固執しない。

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